美瑛の丘の心象風景  おもちゃ屋さん日記

美瑛の丘の上にある 小さなおもちゃ屋さんからの物語

海がめと母




       母の命日でした。
       


       旅先で急に亡くなった母。
       17年経った今でも、あの日のことは鮮明に憶えています。
       あれは僕の結婚を一ヵ月後に控えた記念の旅でした。



       亡くなる前の晩
       僕達は屋久島の永田浜にいました。
       浜では海がめの赤ちゃんが卵から孵って
       月明かりを頼りに懸命に海に旅立っていました。



       海がめの卵は上から順に孵るのですが
       深いところで孵った小亀は、砂の重みで地上に出られず
       死んでしまうこともあるそうです。
       僕達はしかるべき勉強会のあと、その海がめを助けるボランティアをしていました。



       真暗な砂浜を海がめの小さな足跡をたどって
       産卵場所を探します。
       そしてここぞと思うところの砂を優しくどけてゆくのです。
       すると深くて出られなかった小亀が顔を出し
       次から次へ、海へと歩き始めます。
       小亀たちの視力はわずかで、月の明かりの方へ進みます。
       ところが、いままで煌々と輝いていた月が雲に隠れてしまったのです。


       間違えて車のヘッドライトや街灯の方へ進んでゆこうとする小亀たち。
       すると、母は持っていた懐中電灯をつけて
       小亀を海へと先導しはじめたのです。
       母の明かりの後を
       波打ち際まで
       小亀たちが列になっていました。。。








       それが母との最後の思い出です。
       当時、小学校の養護教諭として働いていた母。
       保健室にくる子ども達の中には
       心に傷をもっていたり、生きる方向を見失っていた子どもも沢山いました。


       母が亡くなった後、そんな子ども達から手紙が何通も届きました。
       ああ、小亀たちが無事育っていたんですね。
    





       あの月夜の浜辺の光景。
       母の人生の縮図のように
       きっと僕の心から消える事はないでしょう。





       



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